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神保町のドトールで隣に座った男がストローの音を立ててアイスコーヒーを飲み、鼻をほじり、女がそれを注意した。長机は中央で半透明のガラス板によって仕切られ、向かいの席に座った髪を引っ詰めた女性が熱心に問題集を解いている。解いているシルエットが見える。老婆が二人、「個室がある」と言いながら喫煙席の扉を開けた。勘違いしたのかと思ったが、中に入っても引き返してこない。きっと家で夫が煙草を吸うのだろうか。

大学の本屋でウェルベックの新刊を手に取る。一行目からダミアン・ハーストが出てくる。一冊も読んだことがないのにハードカーバーを買うのはどうかと思い、『素粒子』の文庫にした。